アナフィラキシーショック・医療事故の裁判例情報

医療事故のうち、医師に注意義務違反がある場合が医療過誤となります。

アナフィラキシーショックによる死亡について、医師の注意義務違反を認めた裁判例としては、最高裁判所平成16年9月7日判決がありますので、その情報を分かりやすく要約して紹介します。

 

事実(要約)

平成2年8月8日、患者は、S状結腸がん除去手術を受けた。医師は、術後感染予防を目的として抗生剤の投与を開始した。同月25日、医師は、細菌培養検査の結果に基づいて薬剤を変更し、抗生剤ペントシリン及び抗生剤ミノマイシンの投与を開始することとした。
同日午後10時、看護師は、抗生剤ペントシリン及び抗生剤ミノマイシンの点滴静注(静脈注射)を開始し、午後10時02分ころ、病室から退室した。その直後、患者は苦しくなり、ナースコールをした。
看護師は、詰所でナースコールを聞き、午後10時10分に病室に入った。患者から、薬剤を投与してから異常が現れたと告げられたため、薬剤投与を中止し、午後10時15分、医師に連絡した。医師が病室に到着した時点において、患者に意識が無く、ほぼ呼吸停止かつ心停止の状態だった。人工呼吸と心臓マッサージが行われ、午後10時40分に気管内挿管がなされ、午後10時45分から強心剤アドレナリン(ボスミン)が投与されたが、翌26日午前1時28分、患者は死亡した。
死因は、抗生剤ペントシリンまたは抗生剤ミノマイシンの作用に基づくアナフィラキシーショックによる急性循環不全だった。

 

裁判所の判断(要約)

本件各薬剤は、アナフィラキシーショック発症の原因物質となりうるものである。薬剤の静注投与によるアナフィラキシーショックは、ほとんどの場合、投与後の5分以内に発症するものとされており、その病変の進行が急速であることから、投与後の経過観察を十分に行い、発症した場合には、できるだけ早期に救急治療を行うことが重要であるとされている。
医師には、アナフィラキシーショックを引き起こす可能性のある薬剤を投与するに際しては、発症後における迅速かつ的確な救急処置を執りうる医療態勢に関する指示をしておくべき注意義務があり、医師には注意義務を怠った過失がある。

 

より良い医療のために

この裁判例は、平成2年当時の医療水準に基づいて医師の注意義務について判断しています。医学の進歩に伴い、医師の注意義務の内容も変化していきます。
しかし、アナフィラキシーショックを引き起こす可能性のある薬剤を投与するに際しては、ショック(急性循環不全)に対する救急処置のとれる準備(直ちにアドレナリン、ボスミン、エピネフリンを投与できる態勢づくり)をしておくことが求められており、その準備を怠った状態で薬剤を投与すると、医療過誤(医療ミス)になりやすいという点は変わらないと思います。

 

弁護士 秋 山   誠 

 

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