医療事故のうち、医師に注意義務違反がある場合が医療過誤となります。
添付文書と診療ガイドラインのどちらか一方の推奨に従えばよいのかについて検討した裁判例としては、京都地方裁判所令和3年2月17日判決がありますので、その情報を分かりやすく要約して紹介します。
事実(要約)
患者は、平成28年4月4日から溶血抑制等の治療薬ソリリスの継続的投薬を受けていた。
8月22日、40度の高熱、頭痛、嘔吐があった。担当医師は、細菌感染についても相応の疑いを抱いて患者を入院させたが、CRPと白血球の数値が低いことから細菌感染の可能性は低いと考えて、抗菌薬を投与せずに経過観察とした。
翌23日午前4時25分、本件患者の全身に紫斑が出現し、ショック状態になったことから、抗菌薬ゾシンが投与されたが、同日午前10時43分、患者は死亡した。死因は、急速進行性の劇症型髄膜炎菌感染症による敗血症性ショックであった。
裁判所の判断(要約)
CRPや白血球の数値が低いからといって細菌感染の可能性がないとは判断できず、疑いを否定する根拠になるものではない。
敗血症ガイドラインでは、敗血症が発症したことを疑わせる徴候としての全身の紫斑、血圧低下、意識状態の低下などの症状があるときは、1時間以内に抗菌薬を投与すべきであるとされているが、これは敗血症一般を対象にしたものであると解され、ソリリスの投与中に発生する髄膜炎菌感染症の場合にはそのままには妥当しない。ソリリスの添付文書では、ソリリスが免疫を弱めて髄膜炎菌感染症の感染・発症リスクを高めること、同感染症を発症した場合は急激に症状が進行して死に至る場合があることを踏まえ、全身の紫斑等の敗血症の症状が現れた場合はもとより、そうでなくても同感染症の発症が疑われる場合には、速やかに抗菌薬を投与するよう警告しているのであって、それはソリリスに特有の事情を踏まえた特別の警告であるといえるから、ソリリスを投与しているケースにおいては、敗血症一般のガイドラインではなく、ソリリスの添付文書の警告に従って行動することが求められるというべきであって、敗血症ガイドラインの推奨に従っているから問題はないということはできない。
医師には、速やかに抗菌薬を投与すべき注意義務に違反する過失がある。
より良い医療のために
この裁判例は、平成28年当時の医療水準に基づいて医師の注意義務について判断しています。医学の進歩に伴い、医師の注意義務の内容も変化していきます。
しかし、添付文書と診療ガイドラインのどちらかにおいて「急激に症状が進行して死に至る疾患」(見逃してはならない致死的な疾患)が警告されている場合には、その可能性が低いとの理由で見逃してしまうと、医療過誤になりやすいという点は変わらないと思います。
弁護士 秋 山 誠
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