MRSA術後感染の細菌検査 ・ 医療事故の裁判例情報

 医療事故のうち、医師に注意義務違反がある場合が医療過誤となります。

 MRSA術後感染の細菌検査について、医師の注意義務違反を認めた判決としては、大分地方裁判所平成21年10月1日判決がありますので、その情報を分かりやすく要約して紹介します。

 

事実(要約) 

 患者は、平成16年5月6日に胃全摘術を、7日に再手術を受け、再手術後に39.4度の高熱があった。8日にCRP値が前日の2.87mg/dlから18.13mg/dlに急上昇し、白血球数が2800/μlと減少した。

 しかし、担当医師は、7日から抗生剤メロペンを投与したものの、細菌検査を行わなかった。

 10日にはPaO2が86.6mmHgとなり、白血球数は8500/μl、CRP値は39.26mg/dlに上昇し、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)と診断された。11日に痰培養検査及び糞便培養検査が行われ、13日に血液培養検査が行われた。14日にMRSA腸炎との診断に基づきバンコマイシンの投与が開始され、26日にはMRSAが検出されなくなったが、患者は6月12日に死亡した。

 死因は、MRSA腸炎及びMRSA肺炎による多臓器不全であった。

 

裁判所の判断(要約)

  MRSA感染症を疑う場合は細菌を同定するため、排液、血液などの細菌検査を行うべきである。

 細菌検査に要する期間は2日あれば足りると認められるから、仮に5月8日に細菌検査が行われれば、同月10日にはバンコマイシンが投与され得たし、仮にそうでないとしても、同月9日にはMRSA腸炎を発症しているから、便について細菌検査が実施されれば、同月11日にはバンコマイシンが投与され得たと認められる。

 したがって、本件過失に係る注意義務が果たされていれば、バンコマイシンの投与は3日ないし4日早まったと認められ、このことが予後を好転させる事情であることは明らかである。

 以上の事情を総合考慮すれば、本件過失と患者の死亡との間の因果関係は、これを肯定することができるというべきである。

 

より良い医療のために

 この裁判例は、平成16年当時の医療水準に基づいて医師の注意義務について判断しています。医学の進歩に伴い、医師の注意義務の内容も変化していきます。

 しかし、術後感染では、早期診断と原因部位の同定が重要であり、治療として感染創の除去と起因菌を同定しての感受性ある抗菌薬の投与が基本となりますので、細菌検査をせずに感受性の無い抗菌薬を漫然と投与していると、医療過誤になりやすいという点は変わらないと思います。

弁護士 秋 山   誠 

 

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