医療事故のうち、医師に注意義務違反がある場合が医療過誤となります。
消化管出血と経過観察について、医師の注意義務違反を認めた判決としては、名古屋地方裁判所平成18年11月7日判決が裁判例情報として公開されていますので、その情報を分かりやすく要約して紹介します。
事実(要約)
平成12年10月、患者は、交通事故の治療として、ソル・メドロール(副腎皮質ホルモン製剤)とロキソニン(解熱・鎮痛・抗炎症薬)の投薬を受けていた。死亡の前日、午前6時には、最高160、最低97であった血圧が、午前9時には、最高103、最低76と急速に低下し、同日午後4時30分には、病院内で倒れた。午前中からその頃までに7回黒色便が出ており、午後6時10分には、意識消失、けいれん、無呼吸、脈拍不触知、いびき様の呼吸をする状態となり、午後6時15分には黒色便失禁も見られた。
しかし、担当医師は、止血処置として抗潰瘍剤を投与し、絶飲食を指示しただけで、経過観察を続けた。患者は、翌日午後3時、心肺停止状態となり、午後5時17分、消化管出血による出血性ショックにより、死亡した。
裁判所の判断(要約)
ソル・メドロール(副腎皮質ホルモン製剤)とロキソニン(解熱・鎮痛・抗炎症薬)の投薬を受けている患者が黒色便を示す場合は、ソル・メドロールとロキソニンが消化管出血の副作用を有していること、頻度の多い疾患、見落とすと致命的な疾患を考えて対応すべきであることからして、医師は、第一に上部消化管出血を疑うべきである。
そして、消化管出血は緊急内視鏡検査により確定診断されること、止血が遅れると出血がさらに進んでしまうことからして、医師には、直ちに内視鏡的止血処置を前提とした治療的緊急内視鏡検査を行うべき検査実施義務がある。
上部消化管出血を疑った場合、どのような措置を執るべきであったかについて検討すると、患者は、出血を繰り返すごとにより重篤な状態に陥ることから、直ちに内視鏡的止血処置を前提とした緊急内視鏡検査を実施すべきであり、例外は、緊急内視鏡検査の実施によりかえって患者が死亡する危険が高まるために同検査の実施を避けることが相当といえるような特段の事情、すなわち患者の血圧が不安定な場合やショックを来している場合に限るべきである。
本件では、緊急内視鏡検査の実施によりかえって死亡の危険が高まるといえるような特段の事情があったとは考えないから、担当医師は、少なくとも同日午後6時15分ころまでに、上部消化管出血が発生している可能性が高いと診断した上で、同日午後6時30分ころ、緊急内視鏡検査を実施し、出血部位、出血量等が確認された場合には、直ちに内視鏡的止血処置をとるべき注意義務があったのにこれを怠り、経過観察を続けた過失がある。
より良い医療のために
この裁判例は、平成12年当時の医療水準に基づいて医師の注意義務について判断しています。医学の進歩に伴い、医師の注意義務の内容も変化していきます。
しかし、薬剤の重大な副作用として消化管出血のあることが注意喚起されている場合には、見落とすと致命的となる消化管出血による出血性ショックの可能性を常に念頭に置いて、再検査、診断、治療をしていかないと、医療過誤になりやすいという点は変わらないと思います。
弁護士 秋 山 誠
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