固定残業代制度(定額残業代制度)の合意により時間外労働に対する割増賃金が支払われたとはいえないとする判決としては、最高裁判所平成29年7月7日判決が裁判例情報として公開されていますので、分かりやすく要約して紹介します。
事実(要約)
雇用契約において、時間外労働に対する割増賃金について、年俸1700万円に含まれることが合意されていたが、年俸1700万円のうち時間外労働に対する割増賃金に当たる部分がいくらなのかは明らかにされていなかった。
裁判所の判断(要約)
労働者に支払われる基本給や諸手当にあらかじめ含めることにより割増賃金を支払うという方法自体が直ちに労働基準法37条等に反するものではない。
しかし、時間外労働に対する割増賃金を年俸1700万円に含める旨の合意がされていても、年俸1700万円のうち時間外労働に対する割増賃金に当たる部分がいくらなのかを明らかにしていないのであれば、支払われた賃金のうち時間外労働に対する割増賃金として支払われた金額を確定することすらできないのであり、支払われた年俸について、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない。
したがって,年俸1700万円の支払により、時間外労働に対する割増賃金が支払われたということはできない。使用者には、通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金を全て支払う義務がある。
より良い労使関係のために
この裁判例は、固定残業代(定額残業代)の合意をすること自体を違法としているわけではありません。
しかし、固定残業代(定額残業代)の合意をしても、残業代(割増賃金)支払義務が免除されるわけではありませんので、固定残業代(定額残業代)として支払われる残業代の金額を明示して合意することにより、労働基準法に基づく残業代計算を行えるようにしておく必要があります。そして、労働基準法に基づく残業代計算をきちんと行い、その計算金額が固定残業代(定額残業代)の金額を超える場合には、その差額を支払わなければなりません。
会社にとって労働者は大切な戦力であり、労使関係においては相互の信頼関係が大切です。「固定残業代(定額残業代)制度だから残業代は出ない」と言って、残業代(割増賃金)支払義務を怠っている会社は、労使の信頼関係が失われ、戦力が低下することになると思います。
弁護士 秋 山 誠
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