医療事故のうち、医師の注意義務違反がある場合が医療過誤となります。
癌の見落としについて、医師の注意義務違反を認めた裁判例としては、名古屋地方裁判所平成14年4月12日判決が裁判例情報として公開されていますので、その情報を要約して紹介します。
事実(要約)
平成6年9月、放射線科医から、CT画像上、肺癌を疑わせる異常陰影が認められるとの意見があった。しかし、担当医師は肺癌を疑わせる形状があるという印象を受けなかったため、結核腫と診断し、結核の治療を行いつつ経過観察を続けた。
平成7年8月、検査の結果、肺癌Ⅲ期であり、もはや手術ができないこと、化学療法と放射線治療をしても5年後の生存率は20パーセントであることが判明した。
裁判所の判断(要約)
平成6年9月の気管支鏡検査で結核菌も癌細胞も検出されなかったということは、腫瘤の原因は特定できなかったということであり、経過観察は常に肺癌の可能性を念頭に置いて行うべきである。結核として治療を開始した後も注意深い観察が必要である。
そして、結核に関しては経過観察の期間は投薬から3か月が限度であり、それ以上陰影の縮小をみない場合には結核以外の疾患も考慮してさらなる検査をする必要があると認められる。
本件において、平成7年1月までの約3か月の経過をみると、陰影の大きさが縮小した形跡はなく、抗結核薬の効果自体必ずしも明らかでなく、結局、腫瘤の原因は特定できていなかったということについては平成6年9月と変わることはない。したがって、担当医師は、遅くとも平成7年1月あるいは同年2月の時点では再度の気管支鏡検査をし、これにより確定診断がつかなかった場合には開胸肺生検等のより侵襲的な検査に踏み切るべき注意義務があったと認められる。
そして、被告病院では当時開胸肺生検は行われていたのであるから、これに踏み切らなかった担当医師には上記の診療上の注意義務を怠った過失がある。
より良い医療のために
この裁判例は、平成6~7年当時の医療水準に基づいて医師の注意義務について判断しています。医学の進歩に伴い、医師の注意義務の内容も変化していきます。
しかし、癌の可能性を否定できず、結核の治療効果も上がっていない状態が続いているのであれば、長期にわたって漫然と経過観察を続けるのではなく、当初の診断が誤りであった可能性を考えて、再検査をして診断と治療を修正していかないと医療過誤になりやすいという点は変わらないと思います。
弁護士 秋 山 誠
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